お問い合わせ窓口領域における生成AI活用の可能性
イラストは株式会社エーアイスクエアがChatGPT Plusを利用して作成
2022年にChatGPTが登場して以降、飛躍的なスピードで生成AIの研究・開発・業務活用が進んでいます。コンタクトセンターやヘルプデスクをはじめとしたお問い合わせ窓口業務に関しても、人口減少や労働力不足を背景に、生成AIを活用した業務の高度化が推進されています。本コラムでは、生成AIの現状やお問い合わせ窓口領域における生成AIの活用可能性についてご紹介します。
生成AIの現在状況
2024年3月現在、ChatGPTに留まらず、様々な生成AIが誕生しています。
代表的なサービスは以下です。
種別 | 提供会社 | サービス名 |
---|---|---|
テキスト生成 | OpenAI | ChatGPT Plus |
Gemini | ||
Anthropic | Claude3 | |
Microsoft | Microsoft Copilot | |
Notion Labs | Notion AI | |
画像生成AI | Stability AI | Stable Diffusion |
Midjourney | Midjourney | |
Canva | Text to Image | |
starryai | Create Art with AI | |
NovelAI | The AI Storyteller | |
動画生成AI | VoyagerX | Vrew |
HeyGen | AI Video Generator | |
Runway AI | Runway Gen-2 | |
OpenAI | SORA |
最近では、日本企業による日本語に特化したLLM※1モデルも登場し始めました。
参考リリース:ELYZA、グローバルモデルに匹敵する日本語LLMを開発
これらの生成AIは、機械翻訳・要約・質問応答・文章生成・言葉の言いかえや、画像生成、動画生成など、これまででは出来なかった幅広いタスクをこなすことが可能です。また、テキストや画像・動画の生成性能の向上と合わせて、近年では、マルチモーダルAI※2や、LAM※3も登場しつつあります。
生成AIの研究は、現在も全世界で進められており、今後も想像がつかないスピードで新しい技術が誕生する可能性が高い状況です。
※1 LLM(Large language Models)は、大量のデータと深層学習技術によって構築された言語モデルのことです。
※2 マルチモーダルAIは、画像、音声、テキストなどの異なる種類の情報を扱うAIのことです。
※3 LAM(large action model)は、人間の意図を理解し、実行する新しい基礎モデルのことです。
お問い合わせ窓口領域における生成AI活用の可能性
お問い合わせ窓口業務でも、幅広いタスクをこなせる生成AIを活用した業務の高度化・効率化が推進されています。コールセンター白書2023によると、日本のカスタマーサービスにおける生成AIニーズに関するアンケートで、「生成AIを既に活用している」もしくは「活用を検討中」と回答した割合が半数近くに達しています。
出典:コールセンター白書2023
また、「生成AIの活用成果で期待したい点は?」といったアンケートでは、「後処理業務の効率化」や「顧客対応の自動化」「バックオフィス業務の自動化や効率化」で生成AI活用が期待されており、お問い合わせ窓口業務においても、生成AIへの期待値が高いことが伺えます。
出典:コールセンター白書2023
お問い合わせ窓口領域における具体的なタスクと事例
このような状況の中で、具体的にはチャットボットやボイスボット、要約、FAQ生成など、多岐にわたるタスクでの利用が検討されています。
エーアイスクエア社作成
また、具体的な活用事例も出てきており、実際に効果も出てきています。
事例1
インターネット写真サービス事業を展開するフォトクリエイト社のオールスポーツコミュニティでは、お問い合わせの自動化を目的に、回答生成チャットボットを一般公開しています。
サイトURL:https://support.allsports.jp/hc/ja
事例2
受託設備メーカーのLIXIL社では、コンタクトセンターでの応対業務における履歴入力時間の削減のために生成要約サービスを導入し、生産性向上を実現しています。
プレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000018.000062562.html
事例3
三井住友トラスト・ホールディングスでは、コンタクトセンター十数拠点に大規模言語モデルを導入し、ナレッジの自動生成に取り組み始めました。
事例ニュース:https://it.impress.co.jp/articles/-/25319
また、本コラムページを運営する、進化系ERPパッケージベンダーのGRANDIT社においても、ヘルプデスクへの問合せ応対時間の削減を目的に、生成AIアシスタント導入の実証実験を開始しています。
プレスリリース:https://www.miraimil.jp/information/detail_20240328.php
飛躍的な技術進化と日本を取り巻く課題を背景に、今後も生成AIを活用した具体的な事例は増加していくと考えられます。
生成AIの課題と適用に向いている業務
事例も出始めた生成AIですが、一方で複数の課題があり、生成AIの特徴を理解したうえで、業務で利用することが重要です。
エーアイスクエア社作成
特に、「情報の正確性(Hallucination)」「機密情報漏洩リスク」「返答時間」の3つは非常に重要で、これらの課題に配慮した上で、「目的が達成出来るか否か」を考えることがポイントです。例えば、「返答時間が遅いことで、現状のオペレーションよりも非効率になる業務」には、生成AIの適用は未だ不向きです。
エーアイスクエア社作成
上記課題を理解した上で、現在もっとも利用に適しているのは「ある程度の品質担保で問題ない業務」や「多少の遅延が許される業務」です。例えば、チャットボットなどの自動応答ツールは、「ある一定の回答品質が担保出来、より詳しい説明は人による電話対応に委ねる」といったオペレーションフローが組めれば、利用が出来る可能性があります。また、メール問い合わせにおける返信文生成や、履歴作成に変わる要約での利用、窓口対応以外のFAQ作成やログ分析・集計作業などは、業務の効率化としてすぐに利用が出来ます。
まとめ
技術の飛躍的な進化を背景に、2024年は生成AIの活用が急速に進むと考えられます。しかしながら、どこまでいっても「人の業務の一部を高度化してくれるツール」に過ぎません。また、生成AIを搭載したサービスの運用には、業務面と技術面の両面で、一定の知見をもったメンバーでの体制構築が必要です。近年では、生成AIやAI・IT全般に関する資格試験の増加や、eラーニングサービスも増加しています。自社内でリスキリングを推進することで、生成AIを活用した業務改革がスピーディーに実現できます。まずはChatGPTやGeminiなどの生成AIサービスを触っていただき、興味のきっかけを作っていただければと思います。